依山島為国邑とは?

中国語の文は、英語のようにSVO、つまり主語、動詞、目的語の順が基本であり、SOVの順である日本語とは異なるが、「把(ba)」という介詞を用いると動詞の前に目的語を置くことができる。

小学館「中日辞典 第2版」 手元の電子辞書に収録された小学館「中日辞典 第2版」の〔了〕の項目には、

把工作做完了就去/仕事を終えたら行く。

という例文が載っている。

目的語を導く介詞は「把」だけではない。聖徳太子が作ったと言われる「十七条憲法」にも、以和為貴という文例がある。昔から「和をもって貴きとなす」と読み下すのが普通なので気がつきにくいが、「和」は「為」の直接目的語である。

また、ネット検索をしていたら、

紅鶴水中的藻類及小動物食=トキは水中の藻類や小動物食物とする

という例文も見つかった。

更に、「為」を電子辞書で調べていたら、次のような文例があった。

我們要雷鋒榜様,全心全意地為人民服務/我々は雷鋒手本にして誠心誠意人民のために奉仕しなければならない。
※例文の簡体字を日本式の漢字に変更。

これらの文例があるということは、「以」を使って目的語を動詞の前に出すのは珍しくないのであろう。

狗邪韓国から奴国へ powered by Google Map

さて、魏志東夷伝倭人条、通称「魏志倭人伝」には次のような一節がある。

倭人在帯方東南大海中 依山島為国邑

これは普通、「倭人は帯方の東南大海の中にあり、山島に依りて国邑をなす。」と読み下される。日本人はそう読み下したことで理解できたような気分になってしまうが、私は不幸にも「山島に依りて」とはどういう意味なのか疑問を持ち、考え込んでしまった。その結果、

  • 基本的には「依(yi1)」を「以(yi3)」の代わりに使っている。
  • 古くは介詞「yi」の表記に使う文字が固定していなかったのかも知れない。声調違いの異読があったのかも知れない。
  • 「依」という文字を使うことによって、英語の「according to」の意味も重ね合わせている。

という結論に達した。陳寿は、現代的に言えば「山々を境とし、島を単位として」という意味を「依山島」というたった3文字で簡潔に表現することが出来て得意だったかも知れない。

更に、「国邑」とは何かも問題であるが、従来の「国と都市」説に対して、考古学者の森浩一氏は、「首都」を意味するという説を唱えられた(ちくま新書「倭人伝を読みなおす」、2010/8 刊)。

学研「新漢和大字典(普及版)」しかし私は「国」は「邑(都市)」に対する「country(地方)」であり、「国邑」で「国土、領土」という意味ではないかと推定していたが、今年ようやく購入した学研「新漢和大字典」で調べものをしていたら、「国邑」という項目を見つけた。同辞典によると意味は次の2つ。

  1. 国の都。「入国邑視宮室=国邑に入りて宮室を視る」〔管子・八観〕
  2. 漢代、各王国や諸侯の領地。

魏は後漢ではないが、第2代の曹丕が禅譲を受けるまでは名目上は後漢は続いていたのだから、上の 2. の方が当てはまり、「依山島為国邑」は、冗長な表現で良ければ、「(倭人は)山々を境とし、島を単位として国の領地を形成している。」という意味になる。